日本顎咬合学会・学術大会に参加してきました《その1》
6月17日-18日に東京国際フォーラムで行われた日本顎咬合学会・学術大会に参加してきました。
日本顎咬合学会とは会員数約9000名を擁する国内最大規模の学会です。学会の分野も非常に多岐に渡り、矯正や入れ歯など咬み合わせに関わる発表はもちろんのこと、1本の歯を守るための治療や、衛生士による歯磨きの指導方法など様々な分野の発表があり、とても勉強になりました。
コロナが明けて(?)3年ぶりの現地開催で、みんなウキウキしていたと思います。学会ってウキウキするんですよ。いろんな先生が「俺の症例ドヤァ」ってお披露目するのが学会なんです。そりゃもうすごい発表が盛りだくさんです。それに刺激されて、明日から自分も頑張ろ!ってなれるんです。
夜には勤務医時代に親しくしていた先生たちとの飲み会もあります。築地のお寿司を食べながら「最近どうしてるん?」なんて情報交換をするんです。そっちがメインじゃないですよ?
ちゃんと勉強してきてます!って証明するためにも、どんな学会だったかご報告しますね。
最先端の技術
まずは今回の学会でとても興味深かったトピックをいくつかご紹介します。
フェイススキャン
様々な企業でDX化が進んでいるように、歯科の分野でもデジタル技術を駆使した治療が進んできています。今までは「歯」、「歯を支える骨」、そして「顔の写真」をバラバラのデータで記録して、それを見比べながら治療の計画を立てていました。しかし、歯型の石膏は加工すると元には戻せませんし、アナログのデータでは立体的に歯と骨の位置関係を重ね合わせて見ることはできません。そこでデジタルデータによる加工や重ね合わせの技術が発達して、歯のデジタルデータを記録する口腔内スキャナーや骨を立体的に撮影するCTなどが普及してきています。しちご歯科でもそれらのデータを駆使して安全な矯正治療を行なっています。
今回はさらに一歩進んで、新しい機器が日本で発売されることになり展示ブースができていました。それが「フェイススキャン」です。
フェイススキャンは、顔の立体的なデジタルデータを記録するものです。顔の立体のデータを何に使うの?って声が聞こえてきそうですね。
例えば出っ歯を治して綺麗にしたい、という患者さんがいたとします。矯正でもセラミックでもいいですが、治った後の状態がどうなっているか、患者さんはイメージ出来ているでしょうか?「はい、これで治療終わりですよ」と鏡を渡されて前歯を見た時、正面から見ると普通かもしれないけど横から見るとまだ出っ歯やん!ということはたまにあります。
これはドクターがイメージしている治療後の状態が患者さんに伝わってないから起きるトラブルです。治療をする前に「治療が終わったら横顔はこうなります。斜めから見たらこうなります」というのが伝わっていれば、こんなトラブルは起きません。
とはいえ、顔の立体のデジタルデータがなければ正確な治療後のシミュレーションはできません。だから現状では患者さんにイメージしてもらう方法がないのです。平面の横顔写真を加工して見せることはできますが、それはあくまで予想図であり机上の空論である可能性もあります。
今回のフェイススキャンは図にあるように歯と骨と顔とを全て重ね合わせて視覚的に分析できるツールなので、ドクターも診断がしやすいですし、患者さんもイメージがしやすいです。
しちご歯科でもいつかフェイススキャンを導入したいと思っています。実を言うと、このフェイススキャンが出ることは開業前に分かっていました。こちらが開業前にレントゲン機器を選んでいるときの様子です。
当時はまだ韓国でしか発売されていなかったのですが、いずれ日本に来ることが分かっていたのでそれが日本で発売された時にスムーズに導入できるように、同じメーカーのレントゲン機器を購入したのです(えらい!)
同じメーカーじゃないとデータの重ね合わせがうまくいかなかったり、重ね合わせるためにさらに別の機械が必要になったりするのです。なのでいつかは導入する予定なのですが、なんせ高価な機械なのでしばらく待っていただけたらと思います。
歯髄培養治療
いやぁ、本当にこれには度肝を抜かれました。ついに歯科もここまできたか、と感慨深いです。
一般的に、大きい虫歯ができた時には神経を取る治療を行います。歯の中にある神経の正式名称は歯髄(しずい)と言います。歯髄は歯を守っている重要な役目があり、それを取ってしまうと歯の寿命は短くなってしまいます。ですから、できるだけ歯髄を残すためにAIPC(エーアイピーシー)を行ったり、感染した歯髄だけ除去して健康な歯髄をMTAセメントで保護する治療などが行われてきました。
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AIPCについて
こちらの虫歯治療のページでも触れていますが、また詳しくブログでもご説明しますね
でも最新技術を使えば自分の歯髄を復活させることができるのです!!
抜歯した自分の親知らずなどの歯髄を培養保存し、歯髄を全て取り除いた後でその細胞を入れると、なんと歯は感覚を持った元の状態に戻るようです。
まだまだ発展途上の技術ですがこれが安定して結果を残すことができたら歯科にパラダイムシフトが起こることは間違いないです。今までは、歯髄を取った後にはガッタパーチャーというゴムのような人工物を歯の中に入れて密閉していました。
でも大学では習っていたんです。「歯髄が最良の根管充填物です」と。
つまり、どんなに綺麗にガッタパーチャーで歯の中を密閉しても、自分の歯髄で満たされている歯には敵わないんだから、出来るだけ歯髄を残しましょうね、ということです。歯髄を歯の中に充填する(つめる)ことなんて不可能だけど、そういう言われ方をしてきたんです。
でもこれからは違います。悪くなった歯髄を取って、培養した自分の歯髄を充填する。そんな治療が可能になる日が来るんです。
「神経をとった後、どれで詰めるのがいいですか?保険治療なら人工物です。でも自費治療なら最良の根管充填物である自分の歯髄も選べますよ」なんて説明する日がいつか来るということです。ワクワクしますね。
(かなり長くなったので続きは別の記事で紹介します)